人手不足の物流業界に数々の課題 「ラストワンマイル問題」解消に向けた取り組みとは
近年、運送の「ラストワンマイル問題」に関心が集まっています。
「ラストワンマイル」とは文字通り「最後の1マイル」、つまりお客様に商品やサービスが届くまでの最後の距離のことです。
物流業界の人手不足、またはCO2排出量削減の観点からこのラストワンマイル問題を解消するために、さまざまな取り組みや実験が始まっています。
物流業界が抱える大きな課題
現在物流業界では、人手不足が顕在化してきています。
人手不足は多くの国内企業で言われていることですが、運輸・郵便業では他の産業よりも人手不足が深刻な状況にあります(図1)。
一方でネット通販の市場規模は拡大し、宅配物の取扱件数は右肩上がりです(図2)。
この傾向は今後も続くと考えられます。
物流は経済活動の根幹でもありますから、将来的には、直接物流に関わる企業だけでなく多くの業界にさまざまな影響が出てしまいます。
コスト上昇と物流の「2024年問題」
また、2024年度からトラックドライバーにも「働き方改革法」が適用され、時間外労働の上限が規制されるほか、2023年度からの時間外割増賃金の引き上げの中小企業への適用がトラックドライバーにも適用されます。
これによって物流コストが2024年ごろからさらに高騰すると予想されており、「2024年問題」とも呼ばれています(図3)。
商品の製造や販売量に対して物流が追いつかないという問題が起きるのです。
トラックの積載率減少と「ラストワンマイル」問題
一方でトラックの積載効率は、減少傾向にあります(図4)。宅配が多品種になり、小ロットでの輸送が増加しているためです。
物流危機を招かないようにするためにも、この矛盾した状況を変えなければなりません。また、無駄な輸送はCO2排出量の面からも問題視されています。
さらに解消されなければならないのは、「ラストワンマイル問題」です。
物流は消費者のライフスタイルに合わせるために詳細な日時指定といったサービスの複雑化が進んでいます。しかし一方で不在による再配達が増えていることが、特にコロナ以降問題視されるようになりました。最終拠点からの「ラストワンマイル」にかかる人手不足や燃料費などのコスト上昇は深刻な問題になっています。
輸送効率上昇への取り組み〜貨客混載
輸送効率の低さが際立つ地方で実施されているひとつの取り組みが、佐川急便とJR北海道、そして地元のタクシー会社による協力体制です(図5)。
従来の貨物輸送方法では、佐川急便は北海道の稚内営業所から幌延町まで片道50kmの距離をトラックで走り、そこから各家庭などに荷物を届けるには、53kmを走行しなければなりませんでした。あまり効率の良い輸送方法ではなかったのです。
この状況を解消するために実施されたのが鉄道との協業、そして地元のタクシー会社の利用です。
これにより、トラックの走行距離は稚内営業所から稚内駅までの片道4.2kmで済みます。さらにそこからは鉄道による貨客混載輸送で効率を上げています。
そしてラストワンマイルは、地元のタクシー運転手が配達するという仕組みです。普段は人の少ない地元のタクシーにとっても、営業効率が上がることになります。
結果、ドライバーの運転時間は年間34%軽減され、さらにCO2排出量も年間83%削減されました。
ロボットやドローンによるラストワンマイル問題解消
また、ラストワンマイルにかかる人手不足の解消手段として、ロボットやドローンの利用が検討されています。
国内ではパナソニックや楽天などがロボットでのラストワンマイル配送の実験を行っています(図6)。
ロボットによるラストワンマイル輸送は人手不足を解消するだけでなく、電気の利用によってCO2排出量を低減できるというメリットがあります。
海外ではドローンでのCO2削減も
また、ドローンを利用したラストワンマイル輸送の実験が海外では行われています。おもに環境問題に着目したもので、小型ドローンであれば温室効果ガス削減の効果があることがわかっています。
カリフォルニア州ではディーゼルトラックに比べて温室効果ガスを54%、ミズーリ州では23%削減する効果があったということです*1。
「ギグワーカー」との協業にも注目集まる
また、人件費の面では、ここのところ「ギグワーカー」の存在も注目されています。ギグワーカーとは空いた時間にネットやアプリを使って単発の仕事を受け、収入を得る人たちを指します。
UberEatsなど料理の配達がその典型ですが、バイクや自転車を利用した単発かつ短距離の輸送手段として活用できる可能性があります。
物流は経済を支える重要な存在です。
大きな危機を招かないよう、柔軟な発想で新しい時代を乗り越えなければなりません。
*1「Energy use and life cycle greenhouse gas emissions of drones for commercial package delivery」nature communications https://www.nature.com/articles/s41467-017-02411-5
清水 沙矢香 2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。