成功しているタクシー運転手のマーケティング力がすごかった話
「マーケティングなんて、よくわからない」
そういう人は多いのですが、実は、あなた自身がすでにマーケティングの実践者かもしれません。
マーケティングとは「売れる仕組みを作ること」。もう少し詳しくいえば、「今よりも簡単に利益を生み出す作戦を立てて、実行すること」は、マーケティングの範疇に入ります。
大企業のマーケティング部門で働いている人だけが、マーケティングの実践者ではないのです。
マーケティングを行う人のことを「マーケター」と呼びますが、数年前たまたま乗ったタクシーの運転手が、素晴らしいマーケターだったことがあります。
彼は、マーケティングの極意を独学で発見し、利益を生み出し続けていました。本記事では、その3つの極意をご紹介したいと思います。
極意1:他の人と違うことをする
その日、私は初めて訪れた地でイベントの参加を終え、帰ろうとしていました。
イベント会場前のタクシー乗り場や最寄り駅はひどく混雑していたため、隣の駅まで歩くことに。
しかし、歩き始めて後悔しました。あたりは真っ暗でひとけなく、なんだか怖い。そのうえ、この道が正解なのか確信を持てません。
今さら引き返すのも効率が悪い。できればタクシーを拾いたいけれど、こんなところに通るわけが……と思ったところに、何ともタイミングよく1台のタクシーが来たのです。
慌てて手を上げ、タクシーに乗り込んで行き先を告げた後、たわいのない会話が始まりました。
「ああ、乗れて良かったです。ここですぐタクシーに出会えるとは思ってもみませんでした」
そういう私に、運転手さんは茶目っ気たっぷりに笑って言いました。
「そうでしょう。私は、たくさんタクシーがいるところには、行かないんですよ。自分だけの穴場を見つけるのが好きで。いつも、他のタクシーがいないところにいるんです」
驚きました。すぐタクシーを拾えたのは、私の運が良かったのではなく、運転手さんが意図的に仕掛けたことだったのです。
これがマーケティング極意の1つめ、「他の人と違うことをする」です。
レッドオーシャン・ブルーオーシャン
マーケティング用語に、「レッドオーシャン・ブルーオーシャン」という言葉があります。
レッドオーシャンは競争が激しい血の海、ブルーオーシャンは競争がなく一人勝ちの海です。
イベント会場前のタクシー乗り場は、タクシーが長い列を作っていましたから、まさにレッドオーシャン。
私が乗ったタクシーの運転手さんは、あえてレッドオーシャンは避け、ブルーオーシャン(競争がない場所)に行くというマーケティングを行っていたというわけです。
極意2:お客さんのことを知り尽くす
「お客さん、○○駅まで歩こうとして、迷っていたでしょう」
運転手さんに言い当てられて、ドキッとしました。
「どうしてわかったんですか?」と聞くと、なんとこの運転手さん、休日は自分がお客としてタクシーに乗車し、お客さんの気持ちや行動を研究しているそう。
マーケティング極意の2つめ、「お客さんのことを知り尽くす」です。
「普通のタクシー運転手はタクシーに乗らないから、お客さんのこと、よくわかっていないんですよ」 「でも例えば、2千円でタクシー乗ってお客さんのことわかって、2万円のお客さん乗せたら、10倍でしょ」 「パチンコに2千円使っても、なかなか10倍になんてならないから」
マーケティングリサーチと顧客理解
運転手さんが行っていたことは、まさに、マーケティングリサーチを行って、顧客理解を深めるマーケティングに他なりません。
“マーケティングリサーチ”といっても難しいことはまったくありません。「お客さんの気持ちや行動がわかる」ようになれるなら、どんなやり方でも良いのです。
この運転手さんは、「自分自身がタクシーに乗ってお客さんになる」ことで、マーケティングリサーチをしていたのでした。
費用対効果
しかも、「2千円の費用をかけても、その成果として2万円の売上を上げれば元が取れる」といった具合に、費用対効果(コストパフォーマンス)まで考慮しています。
マーケティング活動を行ううえで、費用対効果の計算は欠かせません。
費用対効果を考えていないと、かかる費用がもったいなく感じてお金を出し渋ったり、逆に無駄なお金を使いすぎてしまう原因となるからです。
極意3:自分なりの改善を続ける
「たくさん工夫をされていて、本当にすごいですね……!」
話を聞くうちに、すっかり魅了された私は、感嘆のため息をつきました。
運転手さんは「凝り性なもので」と照れたように笑い、こう教えてくれました。
「自分でタクシーに乗ってみたり、お客さんを乗せたりしていると、いろいろな発見があるんですよ。こうしたらもっと良いかもしれない、とひらめく」 「ひらめいたら、すぐ試してみるんです。試して良かったら続けるし、良くなければ改善する」 「毎日が、その繰り返しですね」
マーケティング極意の3つめは、「自分なりの改善を続ける」です。これは「PDCA」という手法に酷似しています。
PDCA
PDCAとは、マーケティングの実践によく使われる、「PLAN→DO→CHECK→ACTION」の4ステップからなるサイクルです。
計画や作戦、仮説を立てて実行したら、その結果が良かったのか?悪かったのか?をチェックします。
チェックした結果を踏まえて改善し、また次の作戦を立てて実行し……とサイクルを繰り返していくことで、どんどん良くなっていく。これがPDCAです。
成功することより大事なのが「評価→改善」
PDCAで大切なのは、「DO(実行)」で成功することではありません。
成功よりも大切なのが「CHECK(評価)→ACTION(改善)」のステップです。
CHECK(評価)のステップですべきことは、「成功か、失敗か」を判断し、成功した場合はなぜ成功したのか?失敗した場合はなぜ失敗したのか?を明らかにすること。
明らかになった原因をACTIONのステップで改善し、次の作戦へつなげていきます。
「CHECK(評価)→ACTION(改善)」のステップさえ飛ばさなければ、「DO(実行)」で失敗しても問題ではありません。
PDCAサイクルでは、失敗は必ず成功のもとになる仕組みになっているからです。
さいごに
ここまで3つの極意をお伝えしてきました。
極意1:他の人と違うことをする
極意2:お客さんのことを知り尽くす
極意3:自分なりの改善を続ける
これらを押さえるだけでも、マーケティング力は格段にアップします。マーケティング力が高まれば、以下を実感できるはずです。
- 喜んでくれるお客様が増える
- 今までよりも少ない労力で売上が上がる
- マーケティングの力を使っていない競争相手に勝てる
- うまくいくから仕事が楽しくなる
マーケティングには何百年もの歴史があり、先人たちが編み出した法則や戦略がたくさんあります。興味があれば、ぜひ書籍などでも学んでみてください。
もしマーケティングに取り組む人の少ない業界で働いているとしたら、マーケティングを学ぶだけで勝ちやすくなります。なぜなら、「極意1:他の人と違うことをする」に該当するからです。
マーケティングを活用して、ラクに楽しく働いてみませんか。今までとは違った世界が見えてくるはずです。
三島つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。