トラックも「電気」の時代に? EVトラックへの期待と課題
物流業界でもCO2排出量の削減が意識され、運送車両のEV化が進みつつあり、トラックについても、自動車各メーカーが相次いでEV車両を開発・発表しています。
しかしトラックの場合、タクシーなどと比べて車両が大きい・輸送距離が長いなどの特徴もあり、課題はまだ多い状況にあると言えます。
ではトラックのEV化は現在どこまで進み、一方でどのような課題があるのでしょうか。
最新事情とトレンドについて見ていきましょう。
いすゞ、三菱、日野…小型・中型車を相次いで披露
トラックメーカーは近年、EVトラックの開発・販売に力を入れるようになりました。
三菱ふそうは世界初の量産型小型トラックとして「eキャンター」を発表しています。
2017年以降、川崎工場だけでなく、ポルトガルのトラマガル工場でeキャンターの量産を始めています。
総重量7.5トン、普通充電で最大11時間航続可能な車両は、厚木市でごみ収集車としても採用されています*1。
また、日野自動車は、宅配用の「日野デュトロZ EV」の販売を2022年の夏頃から始める予定であることを発表しています(図1)。
図1 「日野デュトロZ EV」外観
(出所:日野自動車、物流現場での使い勝手を追求した超低床・ウォークスルーの小型EVトラックを開発」日野自動車)
https://www.hino.co.jp/corp/news/2021/20210415-002872.html
車両総重量は3.5トン未満で、宅配用に必要な100km以上の航続距離を目指したものです。また、ドライバーの体力負担を軽減するために、床面地上高は従来の後輪駆動車の半分ほど、約400mmを実現しています(図2)。
図2 「日野デュトロZ EV」の構造
(出所:日野自動車、物流現場での使い勝手を追求した超低床・ウォークスルーの小型EVトラックを開発」日野自動車)
https://www.hino.co.jp/corp/news/2021/20210415-002872.html
超低床かつ車両内部の床もフラットに設計されており、配送業務をスムーズに行えるようになりました。
また、いすゞ自動車は2022年のジャパントラックショーに小型EVトラック「エルフEV」のモニター車を展示しています(図3)。
図3 「エルフEV」モニター車
(出所:「いすゞ、「ジャパントラックショー2022」に小型トラック『エルフEVモニター車』などを出展」いすゞ自動車)
https://www.isuzu.co.jp/newsroom/details/20220427_01.html
続々開発にある大きな背景
日本の各社が揃ってEVトラックの開発・発表を続けているのにはいくつかの背景があります。
「グリーン成長戦略」政府目標
まずひとつは、政府目標です。政府が「グリーン成長戦略」の中で掲げている、車両の電動化目標はこのようになっています(図4)。
図4 商用トラックの電動化目標
(出所:「自動車産業のカーボンニュートラル実現に向けた課題」参議院事務局)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2021pdf/20210910052.pdf p53
2030年までに8トン以下では新車販売のうち20~30%、8トン超では2020年代に5000台の電動車を先行導入するとしているのです。
各メーカーのシェア争いは激化していくと考えられます。
中国製トラックの浸透じわり
そして、背景のもうひとつには中国産のEVトラックが日本国内の市場に浸透しはじめていることです。
特にコロナ禍で宅配の需要が大幅に増えた状況の中で、佐川急便など日本の宅配業者が配送車両として中国製の電気自動車を活用しています*2。
魅力はやはり、圧倒的な低価格です。首都圏を中心に運送業を展開するSBSホールディングスも中国の東風汽車集団などが生産するEVトラックの導入を予定しており、今後5年で自社の車両2000台をEVに置き換えるといいます。
大型車と違い、短距離の配送では航続距離はそこまで重視されないという事情もあります。同時に、SBSホールディングスの鎌田雅彦社長はこのようにも話しています。
さまざまな国内自動車メーカーと話したものの「価格が下がらない。どうやっても無理だ」と言われたため、安い車を選んだと説明。「高いトラックがあるから運賃を値上げしてくださいとは言えない」と話した。
<引用:「中国製EV、日本の宅配業者にじわり浸透-圧倒的な低価格武器に」ブルームバーグ>
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-01-16/R5O8RQT0G1KW01
商用車に限らず、中国のEVの低価格化は加速度的に進んでいます。
中国の上汽通用五菱汽車の小型EV「宏光MINI」は約46万円の低価格を実現し、「爆売れ」しているという話もあるくらいです*3。
日本の自動車メーカーには、こうした危機感があるのです。
日本でのEVトラック普及の壁
一方で、日本でのEVトラック普及には、まだ様々な課題が残っています。
まずは、やはり費用面です。
現状では車両の使用年数は15年程度が一般的ですが、EV車は耐用年数が6年程度でリースが切れるとされています*4。
再契約によりコストが跳ね上がってしまうのです。一方で現在の物流の現場では運行コストを荷主に転嫁できない厳しさがあり、コスト上昇は大きな痛手になってしまいます。
また、現状の近距離トラックでは、走行距離は最低で1日100キロ、理想は200キロとされています*5。
冒頭にご紹介したように、近年各メーカーから発表されているEVトラックは100キロほどの航続距離を可能にしていますが、もう一伸びする必要がありそうです。
さらには、長距離トラックとなってくると、充電施設が全国に整備される必要があります。サービスエリアで24時間充電可能な場所が一定の間隔で必要ですが、現在のところその整備はじゅうぶんとは言えません。
じゅうぶんな補助のもと、戦略的なEV導入が必要
そして、環境負荷を減らす次世代車両としてEVのほかHV(ハイブリッド)・PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車=水素を燃料とする)と様々なものが挙げられていますが、これらを戦略的に「棲み分け」させることも必要でしょう(図5)。
図5 次世代自動車の棲み分け
(出所:「燃料電池⾃動⾞普及に向けた⽔素ステーション整備の加速」国土交通省資料)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001389844.pdf p6
とはいえ、国内ではまだこれらの自動車のラインナップが少ないという事情もあります。
価格競争が非常に激しい流通の現場でCO2削減目標を急ぐには、様々な課題を同時に解消していく必要性があり、立体的な支援がなければ日本ではまだ難しい部分もあるというのが現状といえるでしょう。
「EV後進国」とも言われつつある日本では、これらの支援は急務なのです。
*1
「三菱ふそう、新型EVトラック試作車公開 複数車種を展開」日経クロステック
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00008/031503423/
*2
「中国製EV、日本の宅配業者にじわり浸透-圧倒的な低価格武器に」ブルームバーグ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-01-16/R5O8RQT0G1KW01
*3
「週刊ダイヤモンド」2021年4月3日号
*4、5
「商用車のカーボンニュートラル推進に向けた課題、要望」日本物流団体連合会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/carbon_neutral_car/pdf/003_08_00.pdf p5、p9
清水 沙矢香 2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。