タクシードライバーの給与体系とは?各体系のメリット・欠点も解説
タクシードライバーの給与体系は、他の業界と違い特殊なケースが多くなっています。基本的には歩合制が多いですが、歩合給と固定給を組み合わせるなど、企業によっても異なります。この記事ではタクシードライバーにおける4種類の給与体系と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
A型賃金(固定給+歩合給+各種手当+賞与)
現在ではA型賃金を採用している企業は少なくなっていますが、ハイヤードライバーなどでは、稀にこの給与体系を採用しています。
A型賃金の特徴
固定給と歩合給の両方が支給されるのが、A型賃金です。売上により変動するものの、他の給与体系よりも固定給の割合が高めの設定になっているのが大きな特徴です。
また、近年では減少傾向にあるものの、在籍年数に準じて固定給が高くなる仕組みを取り入れている企業もあります。ただし、企業によってはノルマが設定されていて、これを下回ると固定給が減額されることもあります。
A型賃金では、固定給と歩合給の他に、賞与や各種手当てが支給されます。住宅手当や退職金など手厚い待遇となっていますが、不況や燃料などの原価高騰の背景もあり、首都圏でA型賃金を採用するタクシー会社は少なくなっています。
メリット
A型賃金は、固定給の割合が高く収入が安定していることが大きなメリットです。企業によっては勤続年数やそれまでの評価に応じて固定給が上がるケースもあり、頑張ればその分を給与として受け取れます。
また、固定給の割合が高いため、売上が少なかった場合でも、給与が大幅に少なくなることがありません。
デメリット
A型賃金では、売上を上げても給与に反映されづらい点がデメリットです。歩合給の割合が低いため、努力して売上を上げたとしても、給与はそこまで上がりません。
そのため、売上の高い社員と売上の低い社員で、給与の差が出にくくなっています。頑張りが給与に反映されないため、「ノルマ以上の売上を上げよう」というモチベーションは保ちづらい環境です。
どんな人におすすめ?
A型賃金は、タクシードライバー未経験者におすすめの給与体系です。未経験から歩合給メインの企業に入ってしまうと、なかなか売上が上がらず収入が低くなってしまう可能性があります。
まだ道を覚えられていなかったり、売上を上げるコツを掴めていなかったりするタクシードライバー初心者は、固定給の割合が高く安定した収入を得やすいA型賃金がおすすめです。また、毎月安定した収入がほしい人にもおすすめです。
B型賃金(完全歩合制)
B型賃金はタクシードライバーによくある給与体系となっていて、とてもシンプルな形式です。
B型賃金の特徴
B型賃金は、完全歩合制です。稼いだ分だけが給与に反映されるシンプルな給与体系で、売上から諸経費を差し引いて、歩合率をかけたものが収入となります。
B型賃金はタクシードライバー経験者に人気の給与体系で、人によっては年収800~1000万円を手にする人もいます。頑張った分がそのまま給与に反映されることが、B型賃金の大きな特徴です。
タクシー会社側からすると、B型賃金は社員の売上に準じて給料を支払うことになるため、経営におけるリスクが小さくなります。不況や原価高騰によってタクシー業界の売上が減少傾向にある近年では、B型賃金はタクシー会社にとって取り入れやすい給与体系となっています。
メリット
B型賃金では、売上を上げた分だけ給与が上がることがメリットです。頑張った分がそのまま評価され給与に反映されることから、モチベーションを高く保てる環境が整っています。企業によっては、住宅手当などの各種手当が支給されるのも魅力です。
また、B型賃金の歩合率は企業ごとに異なるため、一概には言えませんが、総売上の50〜60%というところが多い傾向です。ちなみに、完全歩合制のB型賃金であっても、法令によって最低賃金は保障されているため、給与がゼロになることはありません。
デメリット
B型賃金は、売上を上げられなかった場合に、収入が減ってしまうことがデメリットです。タクシードライバーの売上は、コロナなどの社会情勢の変化に影響を受けやすいため、自分の努力だけではどうしても売上を上げられないこともあります。
そのような場合でも完全歩合制のB型賃金では、他の給与体系に比べて給与が少なくなってしまう可能性があります。また、賞与がないこともB型賃金のデメリットです。
どんな人におすすめ?
B型賃金は、売上を上げるコツを掴んでいるタクシードライバー経験者におすすめです。また、頑張った分を正当に評価してほしい人や、万が一収入が減ってしまっても生活できるようにお金の管理がしっかりとできる人にもおすすめです。
ただし、タクシー業界の売上は不況や原価高騰などの社会情勢に影響を受けやすいため、熟練のタクシードライバーであっても、思うように売上を上げられないこともあります。そこで、収入が大幅に減ってしまう場合に備え、たくさん稼げるうちにきちんと貯蓄していくことが大切です。
C型賃金(完全歩合制・リース方式)
C型賃金は非常に稀な給与体系で近年ではほとんど見かけませんが、地方では採用している企業もあります。
C型賃金の特徴
C型賃金は、個人タクシーに近い給与体系で、自分で車を用意する必要があることから、「リース方式」と呼ばれることもあります。
C型賃金では営業収入の全てがドライバーの収入となりますが、タクシー会社に一定額の管理費を毎月納める必要があります。つまり、売上から管理費や燃料代などの経費を差し引いた残額がドライバーの収入となります。
C型賃金は、完全歩合制という意味ではB型賃金と同様です。ただし、B型賃金は売上に歩合率をかけて給与を計算するのに対し、C型賃金に歩合率は設定されないという違いがあります。
メリット
C型賃金では、稼いだ分がダイレクトに自分の収入となることがメリットです。売上から経費と管理費を差し引く必要はありますが、その他はすべて自分の取り分となるため、他の給与体系と比べると稼ぎやすくなっています。
また、企業によっては出勤時間や休みを自由に決められるため、個人タクシーのように自由度高く働けることも魅力です。
デメリット
C型賃金のデメリットは、完全歩合制のB型賃金よりも給与の変動が激しいことです。個人事業主と同じような働き方になるため、売上がゼロだったとしても、会社に管理費を納めなければなりません。
また、車は自分で用意する必要があるため、メンテナンスに費用がかかります。管理費も負担しなければならないため、売上が少なければ収入が実質マイナスになる可能性もあります。
頑張り次第で給与をどんどん増やすことが可能なC型賃金ですが、燃料高騰などの影響を受けやすく、収支のバランスには常に注意する必要があります。
どんな人におすすめ?
自分が働く営業エリアに精通しているベテランドライバーは、C型賃金での勤務がおすすめです。また、働く時間や休日を自由に決めたい人や、とにかくたくさん稼ぎたい人にも向いているでしょう。
C型賃金では、たとえドライバーの売上がゼロだったとしても、管理費を支払う必要があるため、タクシー会社が損をすることはありません。そのため、ドライバーはノルマや勤務時間などを指定されず、働く時間や休日、収入などを全て自分で決めることができます。
その一方で、ひとり経営者のような感覚で働いていかなければ、安定した収入は得られないことも覚えておきましょう。
AB型賃金(A型とB型のいいとこどり)
AB型賃金は、その名の通りA型賃金とB型賃金を組み合わせたような給与体系です。両者のメリットを取り入れたAB型賃金について解説します。
AB型賃金の特徴
近年、タクシー会社で多く取り入れられている給与体系が、AB型賃金です。ベースはB型賃金ですが、固定給と歩合給で構成され、賞与ももらえる仕組みとなっています。
歩合率はB型賃金と同じく、50〜60%程度のところが多くなっていますが、歩合の支払い方法がB型賃金との大きな違いです。歩合の一部は、その月の給与ではなく賞与として積み立てられ、年2〜3回に分けて支給されます。
たとえば、歩合率が60%で毎月60万円の営業売上を上げている場合を例に見てみましょう。賞与用の積立が営業売上の10%であれば、給与は下記の式で求められます。
60万円×(60%-10%)=30万円(給与)
賞与は1ヶ月あたり6万円が積み立てられることになり、これが年2~3回に分けて支給される仕組みです。
メリット
AB型賃金のメリットは、固定給と歩合給のバランスが取れていることです。A型賃金より歩合給の割合が高く、B型賃金とは違い固定給が支給されるため、収入が安定しやすいこともメリットです。
A型賃金とB型賃金のいいとこ取りをしたような給与体系のため、売上を上げられなかったとしても、B型賃金のように収入が大きく減ってしまうことはありません。その一方で頑張って稼いだ分は、歩合給と賞与に反映されるため、高いモチベーションを維持して働ける環境です。
また、歩合の一部が積立形式で後に賞与として支給されるため、お金の計画を立てやすいこともメリットの1つです。
デメリット
AB型賃金の定義は曖昧で、給与における固定給と歩合給の割合は企業によって異なります。そのため、きちんと確認せずに入社してしまうと、実質的にAB型賃金ではないといったケースがあることがデメリットです。
「固定給と歩合給の割合が、それぞれ何%だとAB型賃金に該当するか」がはっきりと決まっていないため、給与体系が複雑で理解しにくいといった側面があります。
蓋を開けたら「実質A型賃金もしくはB型賃金に限りなく近い形式だった…」というケースもあるため注意が必要です。
入社の際には、固定給と歩合給の割合や、歩合率、賞与の積立方式など、給与の金額がどのように決定されるのかを事前にしっかりと確認しましょう。
どんな人におすすめ?
AB型賃金がおすすめなのは、貯金が苦手な人です。積立方式でまとまった金額が賞与として入ってくるため、「毎月の給与はほとんど使ってしまって貯蓄に回すことができない」といった人でもお金を貯めやすくなるでしょう。また、頑張った分をしっかり評価してもらいつつ、安定した収入もほしい人にもおすすめです。
タクシードライバーの平均年収
厚生労働省の令和3年賃金構造基本統計調査によると、タクシードライバーの平均年収は約370万円です。タクシードライバーの中にはシニア層も多く、収入を抑えて年金をもらいながら働いている方もいるため、平均年収はそこまで高くない結果となっています。
これまで紹介した給与体系や個人の頑張りによって、年収に差が出やすいこともタクシードライバーの特徴です。収入を上げるためには、自分の得意や不得意に合わせて給与体系を選ぶことも重要なポイントとなります。
参考:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001164106&tclass2=000001164107&tclass3=000001164111&tclass4val=0
タクシードライバーが給与を上げるコツ
タクシードライバーが給与を上げるには、たくさんのお客様を乗せて売上を上げることが欠かせません。そのためには、ここから紹介するコツを意識して、お客様を探してみてください。
天候や時間帯によって待機場所を工夫
基本的には駅からタクシーに乗って移動するお客様が多いため、待機場所は駅がおすすめです。特に、人が多いターミナル駅は待機場所として人気が高くなっています。
ただし、天候や時間帯によって、タクシーの利用者が増える場所は異なります。平日の出勤時間帯は、オフィス街付近の駅で待機すると乗客を見つけやすく、住宅の多い駅は乗客数が少なくなる傾向にあります。
病院、空港、商業施設、イベント会場等も、日程や時間帯によっては乗客数が増えることがあります。そのため、乗客が増える飛行機の離陸や着陸の時間帯、イベントの開催日や開場、閉場時間などを事前に調査しておくのもおすすめです。
近道や空いている道を調べておく
人通りが多い場所で待機することも重要ですが、より効率的に多くの乗客を乗せることも売上UPに繋がります。
より多くの乗客を乗せるためには、目的地までスムーズに到着しなければなりません。そのためには、日頃から近道や信号につかまりにくい抜け道、渋滞しにくい道などを把握しておきましょう。
曜日や時間帯などによって混雑するポイントが異なることもあるため、事前に詳しく調査しておくことも売上アップのコツです。
夜間の長距離利用者を探す
タクシー料金は距離に応じて上がるため、なるべく長距離移動を目的としている乗客を探すこともポイント。効率的に売上アップを目指すなら、夜間の長距離利用者を探すのがおすすめです。
22時以降は終電がなくなってしまう人が増え、郊外に住んでいる人のタクシー需要が増えてきます。長距離移動を目的とした利用客を探すにはオフィス街や繁華街の近いターミナル駅が狙い目です。
【まとめ】自分に合った給与体系を見つけることが重要!
4つある給与体系のどれを選ぶかによって、タクシードライバーとしての働き方は大きく変わります。「とにかく安定した収入がほしい」「頑張った分しっかりと給与で評価してほしい」「働く時間や休日は、自分の生活スタイルに合わせて自由に選択したい」など、理想の働き方は人それぞれです。
自分に合った給与体系を選ぶことが、タクシードライバーを長く続け売上を上げていく近道です。
文責 働きやすい職場のミカタ編集部